ジョブ型雇用とは、仕事内容を明確化・限定して雇用契約を結び、業務遂行してもらう雇用形態です。
職務に応じて報酬を決めるという観点で成果主義に基づく職務給に次ぐブームではと、注目されています。
そのブームの背景には、ワークライフバランスへの対応、グローバル化に伴う賃金体系の統一、デジタル人材等の優秀な人材の獲得、コロナ禍によるテレワークの普及などがあります。
ところで、何か新しいことを始めようとする際、できない理由を列挙して自ら動こうとしない人は「評論家」とか「官僚的」と呼ばれ、よい印象を与えないですよね。
それを承知の上、今回はあえてジョブ型雇用で懸念されるリスクを指摘しておきたいと思います。
もちろん、ジョブ型雇用がダメと言っているのではありません。
ジョブ型雇用にも大きなメリットがあります。ただ、指摘するリスクを承知の上、あるいは回避できるとの判断の上で、ジョブ型雇用に取り組んでほしいですね。
さすがに、表面的なメリットに気を取られてなんとなく導入するような場合は、限りなく失敗の可能性が高いと認識すべきです。導入するのであれば、これまでの人事制度の考え方を根本的に変える覚悟で臨まなければいけません。
それでは、懸念されるリスクを指摘しよう。
1.多くの社員の賃金は上がらなくなる
ジョブ型雇用では、ポストと社員の賃金がリンクします。
ここでいうポストとは職種・地位・仕事内容を指します。当然ながら会社のポストには限りがありますね。
たとえば、人事部長は1人でよい。部長と同レベルの仕事をする専門部長というのは、表現上はありえても実際にありません。
つまり、ポストが空かない限り昇進できない。ということは賃金も上がらないということです。
2.チャレンジよりも安定が大切となる
日本は労働市場が活性化しているとは言い難い状況です。
それでも若くて優秀な人は他社に活路を見いだせるでしょうが、そうでない社員は、会社に居続けることになります。しかも、たとえ成果を上げてもなかなか上には進めない状態。
ただ、大きな失敗をすると降格となったり、退職を迫られたりするので、リスクを取らず、目の前の業務をソツなくこなすことが重要となるのです。
そのような社員が大量に発生する可能性があります。
3.人事異動ができなくなる
メンバーシップ型は、会社の命令により配置転換や転勤ができましたが、ジョブ型雇用ではNGとなります。
もちろん同じ職種であれば、勤務場所の変更はありうることですが(契約次第)それほど多いケースではないでしょう。
異動ができないということは、多様な経験を持つジェネラリストを育成できないということです。
経営者の多くは、自身が多様な経験を積んできたケースが多いです。
そのため、ジェネラリスト信仰が強い傾向があり、役員や部門トップには複数の部門経験者を求めます。
そのような経営者好みの人材がいなくなってしまうという懸念が付きまといます。
4.限られた仕事しかしなくなる
ジョブ型雇用では、職務記述書を作成し、そこに書かれた業務を各人が遂行することとなります。言い換えると職務記述書に示された業務だけをすればよいということです。
基本的に評価は決められた仕事を適切に遂行したかで行われるので、範囲外の余計な仕事をするインセンティブは働かないこととなります。
メンバーシップ型のとき以上に限られた仕事しかしなくなるのです。
仕事が細分化されている大企業であればまだしも、何でも屋が求められる中小企業で支障が出ないのでしょうか。
そもそも、これだけ変化が激しく、仕事内容も多岐にわたる時代に有効な職務記述書を作成できるのか、という問題もあると思われます。
上記のリスクを回避するためには、「日本的なジョブ型雇用」とは、メンバーシップ型との折衷型ではないでしょうか。
ジョブ型でも厳密にポストに基づいた運用はせず、必要に応じてポストをつくっていく。
つまり、課長ポストがない場合は、専門課長ポストを用意するということです。
人事異動に関しても、できる限り契約したジョブに限定するよう配慮しますが、状況に応じて異動させることもありうるとすべきです。
社員としても、転職のリスクを取るよりは自社にとどまったほうがよいので、大半はそれに同意するのではないでしょうか。
職務記述書に関しても、「その他□□業務に付随する業務」「上司が指示した業務」などの条項が入り、実情に沿った事項を記載するべきです。
また、評価は仕事の遂行度だけでなく、取り組み姿勢や意欲なども対象としましょう…。
このような“ジョブ型雇用もどき”が、すでに出現していると考えるのが妥当でしょう。
冒頭でジョブ型雇用が求められる背景を述べましたが、ブームで終わらせるわけにはいかないほど事態は切迫しているのも確かです。
今回は少しシニカルにジョブ型雇用をとらえましたが、実際のところその必要性は高いです。日本型のジョブ型雇用がどのような形になるのか今後も注目していきたいと思います。